新しい夜明け

ボブ・ディランの「New Morning」へのオマージュと思われる作品が、90年代の日本で2つ生まれている。 真心ブラザーズの「新しい夜明け」は、96年の快作『GREAT ADVENTURE』に収録されている。 弾き語りの「GREAT ADVENTURE FAMILY」から始まるこのアルバム…

相変わらずの布陣ですが……

結局、何を聴いているかという話なんですけどね。 ①バッファロー・スプリングフィールド『Buffalo Springfield』 バッファロー1stだが、これが飽きるほど聴いているにもかかわらず、週に2、3回は聴きたくなる。 乾いたメロディ、多彩なアレンジ、美しいハ…

成し遂げてしまった、その後

松本人志が芸能活動を休止した。 私がこれまで彼の番組を観ることに費やした時間を総計すると、一人の人間が人格を形成するに十分な長さになるだろう。 現に私の一部は、松本の作り出した笑いの世界によって形成されていることは間違いない。 今回の活動休止…

不穏の時代

大地震から始まった2024年だが、今年は不穏な年になると思う。 それはコロナ禍以降の社会の変化から始まった「空気」にも思えるし、1995年あたりからの時代転換がいよいよ総仕上げのフェーズに入ったかと思わせるものでもある。 このあたり、大風呂敷を拡げ…

「Sort of」の感覚

スラップ・ハッピーは、いくらでもそれを表す記号を連ねることができるバンドである。 クラウトロック、アヴァンポップ、ジャーマンプログレ、はたまたカンタベリー・ロック……これら記号の集合体から浮かび上がるのは、「要するにフツーのロック、ポップスじ…

名盤「Vauxhall and I」

モリッシーのスミス解散後のキャリアは、一言でいえばジョニー・マーへの未練をかたちにしていくことだった。 モリッシーという異形の存在が初めて手にしたパートナーであり、生身の理解者であったマーを失ったことは、彼にとって取り返しのつかない損失とな…

「SPILT MILK」の30年

ジェリーフィッシュの「SPILT MILK」発売から30年が経った。 この30年で私がもっとも聴いたアルバムは何だろうと考えた時、ハイラマズの「サンタバーバラ」同じく「ギデオン・ゲイ」、スティーリー・ダンの「aja」、キリンジ「ペイパー・ドライヴァーズ・ミ…

モテないからモテる、モテるとモテない

表題、まことにやっかいな設定である。 率直に言って私は子供時代からモテる男だったと思う。 が、特にそれが具体的成果として計上される思春期以降、「世間」と対峙せず「世界」ばかりに目を向けていたこともあり、何の実績も伴わないモテ期を過ごした。 長…

世間知らずの世界

自分を取り巻く環境として、世間-社会-世界の三層構造を提起した。 この度、この論の更新を痛感する出来事があった。 先日、東京在住の高校同窓であるFくんと、同じくKくんと会った。 Kくんはおなじみの盟友であるが、Fくんはなんとこの歳での上京というレ…

キリンジの要素

キリンジはその長いキャリアの中で常にハイクオリティな作品を発表し続けている稀有な音楽集団だが、やはり私が繰り返し聴いてしまうのは、泰行在籍時の初期~中期が多い。 一般にソングライターが2人以上いるバンドは寿命が短い。 ビートルズ然り、バッフ…

人口構成と消費

1976年に生まれたということは、実質的な記憶を伴う昭和時代を過ごし、平成時代に若者として社会に位置し、そして中年として現在を生きていることになる。 この間、この国の歴史はドラスティックに変わった。 もちろん、戦争に匹敵する出来事は起こらず平和…

2023年のバッファロー

今年、といってもあと1カ月あるが、アルバム単位で一番よく聴いたのはバッファロー・スプリングフィールドの1stだったように思う。 それまでは「ラストタイムアラウンド」のほうをよく聴いていたのだが、やはり1stの意気込みというか気合は素晴らしい。 と…

穏健に徒手空拳

何がしかのかたちで社会参加をしている限り、人は歳を重ねるごとに何かを獲得していく。 それは決して喜ぶべき、歓迎すべきものばかりではなく、必ずしも他者からの評価を得られるものばかりでもないが、その獲得したものをベースに自分の身の振り方を考える…

私を取り巻く三層構造

私たちは誰もが、「自分」を立脚点にして生きている。 そして、自分を取り巻く環境に対し何かを働きかけたり、そこから作用を受けたりして日々の生活は成り立っているわけだが、この「環境」が三層構造になっていることに気付いた。 もっとも自分の身近に存…

この世で一番キレイなもの

早川義夫の「この世で一番キレイなもの」を初めて聴いたのは、予備校浪人時代だったと思う。 その頃僕は完全な洋楽少年だったが、『ロッキング・オン』で松村雄策さんが早川義夫の復活に触れた記事を高校時代に読んでおり、それがずっと頭の片隅にひっかかっ…

自虐道

正しいおじさんへの道としてもっとも手っ取り早い手法がある。 「自虐」だ。 ライフハック系のサイトでも常套句となっているように、自虐は他者からの好感度を得るメソッドとしてかなり即効性が高い。 半面、そのお手軽さゆえに、芸としての完成度が低いと結…

音楽の衝動

20代前半と30代後半、バンドをやっていた。 いずれもコピーバンドではなく、オリジナルの曲を作って演奏するというスタイルで、それなりの野心というか、「趣味」と言い切ることに抵抗を感じる程度の気持ちで向き合っていた。 人と話していてその話になると…

街のバー

半年ほど前に引っ越してきた街に、一軒のバーがある。 といっても昼間はカフェ、夜はバーといういわゆるカフェバーなのだが、出している酒はそこら辺のオーセンティックバーが舌を巻くようなものばかりなのだ。 そして価格が素晴らしい。 どのビールもカクテ…

世界は知らないことだらけ

SpotifyでPANTA & HALの「マラッカ」を落として聴いている。 驚いた。 同時代の「洋楽」に比肩するほどの演奏クオリティ、それをあくまで「従」の域にとどめる確固たるソングライティングが見事に録音されているではないか。 PANTAに関しては、頭脳警察のア…

正しいおじさん

どうしたら「正しいおじさん」になれるものか、日々模索している。 とりあえずの作業として、私が反面教師にすべく収集した「おじさんムーブ」を列挙しておく。 ・我田引水。他者の話題提供に判で押したように「でも俺の場合…」と切り返す。 ・「俺を敬え」…

サニーデイ・サービスふたたび

ずいぶん久しぶりに、サニーデイ・サービスの作品群を聴いている。 1stの「若者たち」から99年の「MUGEN」あたりまでだが、やはりこの時期のサニーデイは完全にゾーンに入っていたと改めて感じている。 まず何といっても、歌と言葉の圧倒的なクオリティ。 時…

スプリンター

ずいぶん昔の『東京人』に、北野武のインタビューが載っていた。 そのころ北野は「あの夏、いちばん静かな海。」を撮ったばかりだった。 「あの夏~」の主人公が、新しいサーフボードをなかなか手に入れられない件を尋ねられ、北野は以下のように語っていた…

グレート・ジャーニー

高校同窓会に行ってきた。 この旅は当初、私にとって感傷旅行、センチメンタル・ジャーニーになるはずであった。 その根拠は9/27の記事にまとめた心理状態なのだが、結果としてその見込みは大きく外れることとなった。 地元の駅に降り立つと、私は今までにな…

こんな夢を見た

文化祭か何か大きな催事の翌日、土曜日の学校を僕はサボっていた。 何をするでもなく時間を潰し、だらだらにも飽きて外に出ると、帰宅の最中だろうか、クラスの者たちが何人か歩いている。 僕がただたたずんでいると、松居さんが声を掛けてきた。 それまで僕…

同窓会がある

高校を卒業して28年、上京して27年。 半生を超えるこの時間を、私は自分を生き延びさせるために費やしてきた。 私には寄る辺もなく、幸運もなく、あるのは多少の才覚と努力に耐えうる健康体だけだった。 多くの同世代が氷河期とかなんとか言いながらその実、…

バッファロー・スプリングフィールドがわかった、のか

有名なエピソードをひとつ。 エイプリル・フール~はぴいえんど原型期、細野晴臣を虜にしていたのはバッファロー・スプリングフィールドだった。 当時、バッファローは気鋭の天才集団として評価されていたが、非常に「わかりにくい」バンドであり、それが魅…

「居着き」について

自由、ということをどう考えるか。 最も切実で苛烈なのは、心身が物理的であれ心理的であれ拘束状態にあり、そこからの脱却を図る時に目指される境地のことに思える。 そうではなく、憲法など基礎的な枠組みで一応の自由が保障されている場合の自由はどうな…

帰郷のN

中学以来の付き合いであるNが、帰郷を決めた。といっても実家に拠るようなものではなく、地域が自らの育成地というだけで、まったくゼロからの出発となるそうだ。この決断に至るまで、Nには言い尽くせない逡巡があったと思うし、現実的に家庭を失う経験に…

坂のある港町

稜線まで続く緩やかな坂を縦横に貫き、通りが敷かれている。 通りにはオフィスやホテル新旧のビルディングが建ち並び、ほどよい緊張感を街に与えている。 ところが、毛細血管のように張り巡らされた路地に足を踏み入れると、戦前からずっとそこにあるモダン…

ニュータウンの中流

中学1年の頃、少しの間だけ、しょーもない学習塾に通った。 あまりにしょーもない塾だったので、通っていた家の近くの教室が廃止・統合され、なぜか送迎車で30分以上もかかる本校に通うことになってしまった。 中学1年の私はすべてにやる気のない時間を過…