今年、といってもあと1カ月あるが、アルバム単位で一番よく聴いたのはバッファロー・スプリングフィールドの1stだったように思う。
それまでは「ラストタイムアラウンド」のほうをよく聴いていたのだが、やはり1stの意気込みというか気合は素晴らしい。
といってもバッファローの場合、最初から各人のやりたいことはばらばらで、バンドは一つの音像を追求する場ではなく、自分が出したい音を実現していく場にすぎないという認識で成り立っていたように思う。
1stで特に好きなのはニール・ヤング作の曲でリッチー・フューレイがヴォーカルを取る「Do I Have To Come Right Out And Say It」だ。
遠くで鳴っているような楽器の音、ゴージャスなハーモニー、抒情的だが枯れたメロディーライン……この曲にはバッファローの何たるかが凝縮しているように思う。
バッファローの音楽には聴いても聴いても汲みつくせない何かが蔵されていることは、このバンドに耳を奪われた多くの先人が証言している。
その代表的な存在がジミー・ペイジと細野晴臣で、彼らはそれぞれ、バッファローをベンチマークしてレッド・ツェッペリン、はっぴいえんどというバンドをつくり上げた。
いかにもイギリスな、そしていかにも日本な2つのバンドが、これまたいかにもアメリカ(西海岸)なバッファローにインスパイアされて生み出されたという事実は、実に興味深い。
それは、バッファローの核心が意匠にあるのではなく姿勢そのものにあって、聴く者を惹き付けて止まないからだろう。
ルーツミュージックへの憧憬と、相反するような批評性を持ちえたその姿勢が、同時代の鋭敏な表現者に影響を与えたのだ。
バッファローは結局、2年の間に3枚のアルバムを残して分解した。
その後のメンバーたちのキャリアは、まさにアメリカンロックそのものの歩みと言っても過言でない充実ぶりだが、やはり原点はあの2年間にある。
天才たちが60年代の西海岸という伝説的な時代に集い、火花を散らして生み出したものは、今もみずみずしく創造的である。