SpotifyでPANTA & HALの「マラッカ」を落として聴いている。
驚いた。
同時代の「洋楽」に比肩するほどの演奏クオリティ、それをあくまで「従」の域にとどめる確固たるソングライティングが見事に録音されているではないか。
PANTAに関しては、頭脳警察のアルバムを聴いていたくらいでその後の仕事はフォローしていなかったのだが、あくまで自分のスタイルに求道的なタイプの表現者かと思っていた。
ところが「マラッカ」の音は、当時スティーリー・ダンを筆頭にロック界を席巻していたフュージョン~AORサウンドを指向した、世界基準のものだ。
とりわけ、今剛のギターが素晴らしい。
のびやかで切れのあるトーンは、とても二十歳そこそこの若者が弾いているとは思えない風格がある。
PANTAの唯一無二のボーカルも不思議と多国籍サウンドにマッチしており、かなりの滋味がある。
もしかしたら「マラッカ」は、今日日のシティポップdigの文脈の中でも取り上げられているのかもしれないが、それにしてはヴォーカルのクセが強いかもしれない。
もともとPANTAに関しては、巷間言われるポリティカルなイメージはあまりなく、パンキッシュなイメージもない。
頭脳警察の2ndを聴く限りの印象だが、ハードフォークに裏拍や横ノリを加味したサウンドを目指しているように感じていたし、歌詞の内容も、どちらかといえば内省をモチーフにしたもののほうが印象に残っていた。
そう考えると「マラッカ」は突然変異ではなく正常進化の作品であり、巧者のメンバーを手にしたPANTAが、自分の出したい音を出したということなのだろう。
そうか、やっぱり求道的な人なのだ。
とにかく私にとっては未聴の名盤の発見であり、静かな興奮を感じている。
当たり前のことだが、聴いたことのある音楽よりも聴いたことのない音楽のほうがこの世界には圧倒的に多く存在するということを、改めて思い知ったのであった。