音楽の衝動

20代前半と30代後半、バンドをやっていた。

いずれもコピーバンドではなく、オリジナルの曲を作って演奏するというスタイルで、それなりの野心というか、「趣味」と言い切ることに抵抗を感じる程度の気持ちで向き合っていた。

 

人と話していてその話になると必ず聞かれたのが「どんなバンドやってるんですか?」ということなのだが、これは私が最も答えに窮する質問の一つだった。

どんな……。

ジャンルであったり、類似のあるいは目指している具体的なアーティスト名を挙げれば伝わるのだろうし、相手もそこまで真剣に聞きたい情報ではなく座持ちのための質問だろうからテキトーに答えればいいのだろうが、それが出来なかった。

さんざん逡巡した挙句、「えーっと、普通のポップスです」と答えるのが最終的な着地点となった。

 

けっこう真剣に音楽に向き合って気づいたことなのだが、私には「かっこいい」音楽を作る才能がまるでない。

だからたとえば、歌モノであればシティポップとかネオソウルみたいな、ムーブメントのただなかに居場所を作りだすことはできない。

ただ、自分が、ひょっとしたら自分だけが「いいのではないか」と感じられる音楽を作ることはできる。

その音楽は、メロディやフレーズに私の聴いてきた音楽の影響を色濃く確認することはできるが、最終的な手触りは、完全にオリジナルなものであったと思う。

なお、それが高い水準に達していたか、低いレベルでとどまっていたのかは、私にはわからない。

 

そしてもう一つ、バンドをやっていて知ったことに、音楽を生み出すためのエネルギーは、ある種の狂気からしか生まれない、という事実がある。

自分で曲を作って演奏するという行為は能力の問題ではなく、そうさせる衝動が顕在化しており、それに身を委ねる心構えがあるかどうか、だけなのだと思う。

やりたいからやるというよりは、せざるを得ないからやるというのが実感であり、その状態が維持される期間のみ、音楽を作り出すことができるのだ。

 

今の私には、そういった衝動がまったくない。

ただひたすら、好きな音楽を探し求めて聴いているだけで満足なのだ。

ただ、あの衝動がいつ頭をもたげてくるのか、それは自分でもわからない。

もし将来そのようなことになれば、私はやはり素直にギターを手に取り、新しい曲を作り、メンバーを集めるのだと思う。

そして、どこにハマることもなく、かといって未知のものでもない、なんとなく座りの悪い音楽を、「これが最高だ」と思い込んで演奏したり録音したりするのだろう。