キリンジの要素

キリンジはその長いキャリアの中で常にハイクオリティな作品を発表し続けている稀有な音楽集団だが、やはり私が繰り返し聴いてしまうのは、泰行在籍時の初期~中期が多い。

一般にソングライターが2人以上いるバンドは寿命が短い。

ビートルズ然り、バッファロー然り。

ストーンズのように役割分担がはっきりしている場合は別にして、「0→1」を生み出すという特異な才能の持ち主が同じ磁場にいることは、大きなメリットを時に上回るリスクをもたらすからだ。

ビートルズ在籍時のジョンとポールのソングライティング力が神がかっているのは、お互いを強く意識していたからと言って間違いないが、その感情は、尊敬、嫉妬、競争などあらゆる位相がないまぜになった複雑なものだろう。

バッファローなどは、結成当初からヤングとスティルスの対立をエネルギー源に名作を生み出している。

 

その点キリンジは、まず兄弟という肉親関係にあることがどう作用したか、を見る必要がある。

私が思うに泰行在籍時のキリンジは、常にお互いをサポートするかたちで曲が生み出されており、それがそのままアルバム楽曲のヴァラエティにつながっているという、誠に良好な関係性だったのではないか。

これは、高樹がほとんどヴォーカルを取らないというフォーメーションが効いているところも大きく、彼はコンポーザーとして、稀代のヴォーカリスト泰行に楽曲提供していたのだと思われる。

一方の泰行も、キリンジ時代はSSW然としたコミットではなく、あくまで「キリンジの曲」を書くコンポーザーとしての立ち位置にあった。

これは、「馬の骨」やその後のソロワークを聴いて判然したことだが、それらの作品がバンドサウンドであってもSSW的感触で貫かれていることと対比し、キリンジに彼が提供した作品は、「素」に何かが添加されているとしか思えないのだ。

 

堀込兄弟はキリンジというプロジェクトのため、お互いにない持ち味を上手く引き出し合いながら、結果として個性と融合のバランスされた作品を紡ぎ続けた。

そこに緊張感はもちろんあっただろうが、対立や嫉妬が一切感じられないのは、キリンジサウンドの「品の良さ」の源泉であるように思う。

 

結果的に泰行は脱退したわけだが、この理想的な関係性は、メジャーフィールドというプレッシャーのかかる場所で、驚くほど長く継続したとみていい。

そしてその間、中だるみも見せず、新たな挑戦を積み重ねてきたキャリアは、類例のないものとして評価されるべきだろう。

 

ところでキリンジの作品は、昨今のシティポップ文脈でとらえられることも多い。

その洗練ぶりはまさにその通りなのだが、それだけに収まらない「ひっかかり」が常にあるのもまた彼らの音楽の特長である。

それは彼らの基礎的な滋養に、アートやアヴァンギャルドといった要素と同じくらい、ポップさ――それも熱量で押し切るような臆面のなさとして現れるそれがあるからだ。

ビートルズ文法で言えば、ジョン要素もあるがやはりポール要素が勝っている感じ。

クイーン文法で言えば、「ボヘミアン・ラプソディ」を聴いた時の、感動とともにある気恥ずかしさを直視し、しっかり実装している感じ。

 

そういった意味では、はやり最初期の「2 in 1」は、彼らの原点でありすべての要素の萌芽が詰まった密度の高い作品ではないかと思う。

「2 in 1」には「休日ダイヤ」という頭抜けた名曲も収録されているし、キリンジに少しでも足をとめたリスナーであれば、避けて通れない盤だろう。